「知らない」から本当の知へ
寮長 東 晴也
I君(大望3年)の夕拝の感話を一部紹介します。
「私は小学高学年の頃から、(中略)旅としょうして家出を毎週のようにしていました。年齢が上がるにつれて、あそこに行ってみたい、あそこまで歩いてみたいなどと、次第に冒険心が強くなっていきました。私が中学2年の夏休みには、東京から広島まで歩いて目指すことにしました。10日間位で行けると思いました。しかし現実は甘くありませんでした。その時の日記を読みます。『8月18日、出発から8日目。やっと静岡だ。疲れた。あと何個県を越えれば広島だろうか?神様、私の願いを叶えて下さい。お願いします。もう疲れました。』皆さんはこの話を聞いてどう思いましたか?よくこんなことするなと思いましたか?今、思うと本当に私はバカだと思いますし、今やれと言われても嫌だと言うでしょう。しかし、あの時の私は本気で歩いて10日間で広島に行けると思っていました。なぜあんなことができたかと考えると「知らなかったから」だと思います。私はあの時、何も知りませんでした。東京から広島までが800kmあるということを。800kmを歩き続けることがどれだけ大変かということを。(中略)』(一部抜粋)
彼はこの後、インターネットによって何でも容易に調べられることの利便性と味気なさについて述べ、「知らないこと」の楽しさがなくなったと現実を分析し、本で調べたり人に直接会って聞いたりすることの大切さについて述べた上で、最後にこう締めくくりました。
「明日から定期テストです。自分の『知らない』『分からない』が点数で分かります。いい機会です。ぜひ自分の『知らない』物・事に出会って下さい。」
彼は定期テスト前夜に、自分のユニークな思い出を紹介しながら、「自分の知らない世界に向き合おう」と、大望館の仲間に語ってくれたのだと思います。
私はお話を聞いて、大変励まされました。今、のぞみ寮では、ネットやゲーム依存が問題になりつつあります。本来ヴァーチャルな世界であるゲームに関わる自分の生活時間がますます拡大し、本当に自分が生きている世界はどこにあるのか?彷徨っている生徒が少なくないと思わざるを得ないのです。私たちは、指先をクリックするだけで、世界が分かったような、あるいは分かるような気になっていないでしょうか。
彼は「本当に私はバカだ」という自覚が、その広島への徒歩旅行という大冒険の後で与えられています。それは、あくまで「後で」です。そのように生きてみた者だけが知る「バカ」さは、真の知識へ至る出発点になるはずです。
無知を自覚するソクラテスが、古代ギリシアのアテネで最高の賢者と言われたように、私達も「知らない」ことを恐れるのではなく、「知らない」自分を自覚しつつ、本当の知恵(真理)を追い求めて行きたい。そんな寮生活を、生徒の皆さんと共に送りたいと願います。
どうしても前に出たかった上級生の面々です
ハイチーズにおなじみポーズのめぐみ館1年生
「恥を捨てて得たもの」 N.T(大望館1年 新潟県上越市)
僕たち1年生が入寮してから2ヶ月が経とうとしています。僕にとって寮生活は初めてのことばかりで、ゴールデンウィークまでの1ヶ月間は、時間が過ぎるのがとても早く感じられました。
入寮してから最初に1年生を待っていた関門は、『対面式』でした。1年生が一人ずつ寮の先輩と先生の前で自己紹介する対面式では、僕はとても緊張していました。さらに僕は順番が一番最後だったので、なおさら緊張していました。めぐみ館から始まり、光風館、みぎわ館と、どんどん順番が回って来ました。そして大望館の順番になり、ついに僕の順番になりました。緊張していたせいか自分が話した内容はあまり覚えていませんが、先輩が場を盛り上げてくれたおかげもあって、全体としてはきっとよい対面式になっていたのではないでしょうか。対面式も終わり、その安堵感に包まれながら生活していくうちに、1年生の雰囲気も日に日に良くなっていったように感じました。
しかし、安心したのも束の間で、次に待っていた関門は『寮祭』でした。1年生が入寮したばかりのある日、僕はある先輩に「一発ギャグできる?」と聞かれたことがありました。その時は何のことかわからなかったし、人前で何かをすることも苦手だったので「出来ないです」と答えました。しかし数日後、寮祭で一発ギャグをすると伝えられた時、やっとあの質問の意味がわかり、「やるしかないんだな」と思いました。そして寮祭に向けての本格的な練習が始まりました。最初はやっぱり嫌でしたが、練習を積み重ねていくうちに、少しずつ恥を捨てることが出来るようになりました。1年生全体も寮祭に向けて士気が高まっていき、団結していくことが出来たと思います。
そして寮祭当日、寮祭の出し物は対面式と違って保護者の方や学校の先生も来ていたので、対面式よりもずっと緊張するだろうと思っていましたが、なぜか対面式の時よりも緊張せず、逆に楽しむことができました。たぶんそれは、恥を捨てることができ、人前でも今までよりも堂々とできる精神力がついたからだと思います。
今、対面式の時も自分と寮祭の時からの自分を比べてみると、成長したなぁと感じます。1年生の雰囲気も良くなりました。きっと寮での一日一日が僕たちを成長させてくれたのだと思います。その寮での日々を大切にしながら、これからも自分を成長させることが出来たらいいなと思います。
「一年越し」 K.S(みぎわ館2年 千葉県柏市)
みぎわ館48回生が寮祭の出し物に込めた思いは、「楽しく・協力」です。1年生も、見ている人も楽しめるように、そして、1年生に寮祭を通してみんなで協力することを知って欲しかったからです。
1年生が入寮してきて本格的に練習が始まると大変なことも出てきました。最初の練習の日、立ち位置を考えていなくて1年生に迷惑をかけたり、1年生にうまく指示が出せなかったり、本番までに完成できるか不安もありました。でも、ダンスの練習が始まると、初めはぎこちなかった1年生の緊張もほぐれ、笑顔で踊れるようになり、劇とダンスがだんだん完成していく様子を見て、嬉しくなりました。練習の中で1年生は、自分たちで互いにアドバイスし合って決めポーズを考えたり、アドリブの時にはみんなで声を出して盛り上げたり、協力していました。すぐに仲良くなれた1年生を見るのは、先輩として嬉しかったです。2年生でも、小道具や劇を作る人、ダンスを考える人と役割を分けそれぞれが、1年生の出し物が楽しいものになるようにみんなで協力して考えながら活動しました。また、先輩としての自覚が生れていきました。
私自身もこの寮祭を通して成長した部分があります。一つは劇の台本を書くことを立候補したことをきっかけに、もっと寮の行事などで積極的に参加していこうと思ったことです。二つ目は今年の劇で役として出し物に出て、セリフをはきはきと言えたことです。私は去年は熱を出して、寮祭に出ることができませんでした。去年もし寮祭に出ていたら、今みたいにはきはきとセリフを言えていなかったと思います。この寮祭で自分が成長していたことを実感できて、良い経験になったと思います。
寮祭を通して、1・2年生は少しではありますが成長できたと思います。これから、1年生が楽しく・自分らしく、寮生活をしていってくれると嬉しいです。私自身も、これからもっと、楽しく協力しながらみんなと関わっていけたらいいなと思います。
「特別なGW」 K.M(めぐみ館1年 神奈川県)
私のGWは、寮に残って先輩たちと一緒にすごした6日間でした。
4月、めぐみ館の1年生にGWの予定を聞くと、どの子からも「家に帰る」と言う返事でした。それでも「みぎわ館でも残っている人はいるだろうなぁ~」と特に心配はしていませんでした。
しかし、いざGWを迎えるとほとんどの寮生が帰宅してしまいました。その変化が表れていたのが食事をする“友愛館”です。いつもにぎやかな場なのに、この連休中は静かな場所でした。そしてこの連休中私が一番困ったのは、“友愛館”での食事の時間でした。いつもは、めぐみ館の1年生と食べていますが、めぐみ館だけでなくみぎわ館の1年生も全員帰ってしまいました。お盆を持ったまま一人で食べようかと迷っていると、先に食事をしていたみぎわ館の先輩方が「こっちに来て一緒に食べよう」と声をかけてくださったのです。私の心の中には、うれしさと同時に安心感のようなものが生まれました。連休が終わるまで先輩方と一緒の食事の時間でした。食事だけでなく、みぎわ館での“ぎょうざパーティー”“お泊まり会”“海への散歩”等々、一緒にすごす中でいろいろなお話をさせてもらうことができました。
“のぞみ寮のピクニック”の日は、ちょうど私の誕生日でした。男子寮、女子寮関係なく、歌を歌って祝ってくださいました。突然のことですごく驚いたのですが、とてもうれしかったです。思い出に残る“誕生日”となりました。
私の“寮生活”は始まったばかりですが、これからの3年間の中で、連休中に受けた優しさを、私も、いろいろな場面で他の誰かへと伝えていきたいです。
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毎年ゴールデンウィークに、自宅に帰らなかった寮生のために映画鑑賞会を開いたり、夕食にバーベキューをしたり、ピクニックに出かけたりしています。今年のピクニックは紫雲寺記念公園(新発田市)に行き、遊んで食べた後に、温泉に入って帰って来ました。自宅に帰ることができなくても、それはそれで楽むことが出来たのではないでしょうか。
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「共に過ごす楽しさ 共に感じる喜び」 K.K(光風館2年 沖縄県)
「俺らでなんかおもしろいことしようぜ!」僕たち光風館6室は、49回生入寮日に人間ピラミッドを作り、新入寮生を迎えました。新入寮生を迎えた時に、僕は入寮した去年を振り返っていました。飛行機の窓から遠くなる故郷の街を見て、想い出と夢の片道切符を胸にドキドキワクワクしながら、入寮したことを今でも鮮明に憶えています。「今年の1年生も同じ気持ちなのかな?」と考え、僕も先輩として自覚を持てているのか、後輩にどんな接し方をすればいいのか、頭は不安と期待でいっぱいでした。入寮礼拝も終わり、1年生に寮のルールを説明したり、自己紹介やUNOをしたりしていました。1年生の笑顔を見た時、「緊張をほぐすことが出来たんだ」と感じ、とても嬉しかったです。
現代社会は電子化が進み、何でもかんでも機械との会話で済ませられるし、コミュニケーションもSNSやLINEなど便利なものに頼ってしまいます。自分が携帯電話・スマホ・インターネット・ゲームを使っているはずなのに、いつの間にか使われる存在になっています。私もその一人です。
ですが、こののぞみ寮には豊かな自然の中、人との出会いがあります。一人で悩んでいると先生・友達が助けてくれる、そんな空間です。この1年間、僕は敬和学園のぞみ寮で過ごす時間が楽しいと感じています。食事がいつも美味しいこと、放課後にパン屋エミタイでおやつを食べたり、友達とトランプやUNOをしたり、夜遅くに密かに同じ部屋のみんなでお菓子を食べたり、想い出話や恋愛話など、たくさんの楽しい経験をしてきました。それと同時に、この寮の仲間と共に過ごす楽しさ、共に感じる喜びを学びました。僕はその想いを1年生にも同じように、いやそれ以上に伝えるよう努力しました。
しかし、寮生活は楽しいことばかりでもありません。これから苦難が待ち受けているかもしれません。でも、そんなデコボコ道でも仲間と共に弾めば、楽しいリズムに変えられます。そして、いつかこの敬和学園のぞみ寮が『おかえり』と言えるホーム・第二の家になる気がします。
今までの人生で交わることのなかった僕たちが、今ここで共に人生を歩んでいます。全く違う軌道を漂う衛星みたいだった僕たちが、今こうして巡り会えたのは奇跡なんかじゃないと思います。互いに引き寄せ合う力があり、神様が導いてくれて生まれた必然だと感じています。だから、出会いを大切に今日も1日感謝します。卒業した46回生のみなさん、今ここで共に人生を歩んでいる47回生・48回生のみなさん、教職員・寮務教師、そして何より敬和学園に入学してくれた49回生に感謝したいと思います。『出会いをありがとう』と。
《寮祭にお越しいただき、ありがとうございました!》
寮祭にはたくさんの寮生のご家族が、日本全国からお忙しい中足をお運びくださったこと、本当にありがとうございました。とても楽しく充実した時を持つことができました。寮生の家での顔とはまた一味違った表情をしている場面との嬉しい遭遇を多々して頂けたのではないかと思います。
また、献金にご協力くださりありがとうございました。この寮祭で、のぞみ寮生と保護者の方からの献金あわせて20万円が集まりました。 “敬和学園50周年記念事業”と“熊本地震を憶えて日本キリスト教団九州教区”へ献金させて頂きました。
ご協力ありがとうございました。心より感謝申し上げます。
《のぞみ寮物産展への献品のお願い》
来るフェスティバル2日目(6月11日(土))、毎年恒例の『のぞみ寮物産展』を行います。のぞみ寮通信4月号やお葉書でもお願いをさせていただきましたが、物産展に向けての献品をぜひお願い致します。
寮生は日本全国から集まっています。そのご当地の美味しいもの、ご近所のお勧めのものなど目移りするほど様々な食品等が集った売り場は、毎年大盛況です。その売り上げは“敬和学園50周年記念事業”のために学校に献金させて頂きます。ご協力を、よろしくお願い致します。
*賞味期限をお考えの上、お送りください。(当日でも構いません)準備の都合もありますので、前もって御用意いただけたら幸いです。
*誠に勝手ながら、お品代・送料も含めて、ご負担頂きますので、決してご無理のないようにお願い致します。
*「値段付け」の目安に、価格または、ご希望の売値価格をお書き添えください。また、品名やアピール文なども添えていただけますと、大変助かります。
*宛先は、のぞみ寮本部までお願い致します。
〒950-3112 新潟市北区太夫浜325 のぞみ寮本部 寮物産展用品 ☎025-259-2390
【編集後記】
新潟でも半袖生活が始まっています。寮生はテストも終わり、ホッと一息……つく間もなくフェスティバル一色です。悩んだり笑ったり、泣いたり喜んだりしながら、共に暮らす仲間の背中を優しくさすり合いながら日々逞しく過ごしている姿に、毎度のことながら「寮って素敵だなぁ!」と思わされています。
連合対抗で行われるフェスティバルですが、寮の中では連合が違えど互いを心の支えとし合って過ごしている様子が多々見られ、心打たれるシーンが満載です。そんな3年生の後ろ姿を見ながら、2年生も1年生も寮の仲間とは何かを教えられ、個人も集団も日々豊かに育っているように感じます。学年を超えて仲間と共に目標に向かって歩むこと、創り上げることで新たな自分や仲間と出会えるはずです。フェスティバル後のみんなの姿が今から楽しみでなりません!日々与えられている出会いを、私自身も大切にしながら寮生と共に歩んでいきたいと改めて思わされています。
寮務教師:森口 みち子