2016年9月12日月曜日

のぞみ通信 2016年9月6日 第221号

語り合うこと 見ていること

寮長 東 晴也

 「暑中お見舞い申し上げます。先日は、“語ろう会”に参加させていただき、先生方や保護者の方々のお話を聞くことができ、とても良い時間を過ごすことができました。また、息子が家に帰ってから、自分から進んで草取りをしてくれました。敬和に入れて良かったとつくづく思いました。高校生の男の子が、草取りをする姿はとても美しかったです。主に感謝です。」

 これは、M君(光風3年)のお母様が、「帰省届」の通信欄に書いて下さった文章です。私は、2つの意味でとても嬉しかったので、それを紹介させていただきます。
 一つは、語ろう会についてです。昨年、寮教師としてはじめてこの会に参加させて頂きました。この会の意義を十分実感しつつ、もっと良い会にしたいとこの時に思ったのです。私にとって「良い」とは、単純に、生徒の成長につながる意味で「良い」会にしたい、とそれだけでした。そのために一体何が必要か。それはまさしく「語ろう」会の名称そのもので、保護者と教師とが、率直に語り合う場としたいと思ったのです。保護者の皆さんは、のぞみ寮に大切なお子様を預けておられる中で、一体何を思い、何を考え、何に悩み、何を喜んでおられるのか?私は知りたいです。それは、もちろん私の立場ゆえにということでもありますが、皆さんと同じくのぞみ寮に愛してやまない我が子を託している親としても、そう思うのです。
 私は、子どもの前に立つ親として、ふだんから確信していることがあります。それは、親が「口で言うことはなかなか伝わらなくても、実体は伝わる」ということです。親や教師が、目の前のひとりの子ども・生徒のことについて、率直で真剣な語り合いをしている姿は、たとえ生徒からは直接見えることはなくても、そこに偽りのない実体があれば、必ず何かが子どもに伝わると私は信じています。そしてそういう子どもたちは、やがて彼らが大切にする価値観を前にして、率直で真剣な対話をする人間に成長していくと思うのです。
 そしてもう一つは、M君とお母様の感動的な姿です。夏休みに自分から進んで草取りをする男子高校生が、一体この日本に何人いるでしょうか!そして、その姿を見て「とても美しかった」と心ふるわせられる親がどれだけいるでしょうか!さらに、その感動を学校の教師に文書で伝えて下さる方がどれだけいらっしゃるでしょうか!ひと夏の何気ない光景かもしれませんが、私にとっては本当に心温まる嬉しいお知らせでした。そして、この手紙のことをM君に話すと彼はニコッと嬉しそうにこう言いました。
 「見ていてくれたんだー。」見ていてくれること。見ていること。これがどんなに大切なことか。お二人からあらためて教えられました。どうもありがとうございました。

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寮生リレー(130回)

 夏休み、いろんなことがありました。それぞれの地でエネルギー補給をし、学び、出会いを通して成長して帰寮した寮生達。そんな人たちの夏休みの出来事をご紹介します。

 

~敬和キャンプに参加して~

前に進んでいきたい  S.R(光風館2年 茨城県水戸市)

 僕が敬和キャンプに参加しようと思ったきっかけは、同じクラスで昨年敬和キャンプに参加した人からの誘いでした。僕は初め、自分は寮生活をしているから「キャンプに行っても行かなくても自分は変わらない」と思っていました。ですが、その誘ってきた友達が敬和キャンプで経験したことや学んだことを話してくれたことで、僕は次第に行きたくなり、参加することを決めました。
 初めて敬和キャンプに参加して、自分がどれだけ寮で甘えた生活をして、人に頼りがちなところが残っていたことを感じました。敬和キャンプで経験したことを寮生活に活かせたらいいなと思います。僕はとにかく自分が出来ることをしようということだけ考えていました。正直、そのこと以外は頭が回りませんでした。自分が出来ることをやるということは、出来たと思うところもあれば出来なかったところもあります。今、思い返すと出来なかったことの方が多かった気がします。それは悔いが残ったことのひとつです。
 僕は敬和キャンプに参加して、いろんな出会いの中でたくさんの経験をして、学んだことがあります。それは自分から行動しなければ前に進めないということです。2年生の夏休みが終わり、残り後半となってしまった敬和生活を僕は積極的に行動し、前に進んでいきたいと思います。

 

 

~全国高等学校総合文化祭に参加して~

平和と歌  S.A(めぐみ館3年 新潟市北区)

 私は高校生最後の夏休みに、新潟県代表として広島で行われた、全国高等学校総合文化祭合唱部門に出場させていただきました。そこで披露した曲は、作曲家の市原俊明さんに作曲していただいた『Worship of Nature』と、ジブリ映画「となりのトトロ」の挿入曲『さんぽ』の2曲です。市原さんに作曲していただいた『Worship of Nature』は大自然の壮大さを歌った曲です。英語の発音や曲の表現を何度か市原さんに直接教えていただき、たくさんの練習を重ね、完成しました。夏休み後半に控えた大会の曲と両立した練習は大変でしたが、『worship of Nature』はわたしたちの大切な1曲となりました。
 本番は、初めての地ということで緊張しましたが、今までの練習を自信に変え、歌いきることが出来ました。全国からたくさんの団体が出場していましたが、わたしたちと同じように歌を愛する人たちの合唱は、私自身とても刺激を受けました。
 また演奏だけでなく、平和学習も行いました。食べ物もおいしく、景色もきれいな広島からは、悲しい歴史があったのだとは信じられませんでしたが、平和記念公園や平和記念資料館でのガイドさんや現地の教会の牧師さんが語る事実の重みから実感することができました。
 このつらい記憶を乗り越え、今私たちは歌うことができているのだと思いました。このことを絶対に忘れてはいけないと感じました。そう思わせてくれた、この貴重な機会に感謝しています。

 

 

~広島碑巡りの旅より~

肌で感じた、二度と起こしてはならぬこと  S.M(光風館3年 新潟県新発田市)

 全ての事が衝撃的でした。
 平和記念式典の前日から広島は“特別な空気”に包まれていました。聞くと記念式典の行われる日の広島はお盆のようなもので、街中が慰霊ムードになるのだそうです。その中には世界中から平和を願う様々な国籍の人々も訪れていました。
 当日、私は実際に71年前ここにいたらどうなっていたのだろうと想像しながら、式典会場に向かいました。そして、8時15分。言葉には言い表せないような気持ちになりました。
0906_no03 被爆者のお話はどのお方も心に響く内容でした。爆心地から僅か1㎞の地点で被爆した寺本さんは、学童疎開中に病気にかかり広島の実家に一時帰宅した直後に被爆しました。疎開先に迎えに来た母親が長旅で疲れていたため、6日に帰宅する予定が当時10歳だった寺本さんの駄々によって4日に変更になったそうです。そして、原爆で母親を亡くした後は、とてつもない後悔をされたそうです。それでも家族の中で唯一生き残った自分自身に対し、「与えられた命」という言葉を言い聞かせ、ここまで懸命に生きてきたとおっしゃっていました。私自身、ここまで鮮明に気持ちが伝わってくる経験は初めてでした。そして、二度とこのような出来事を繰り返してはならないと肌で実感しました。
 しかし、広島に投下された原子爆弾は今やその何百倍もの威力となった核兵器によって世界を常に脅かしています。中には日本は核を持っていないから悪くないといった考え方を持っている人がいるかもしれませんが、それは間違っています。
 日本には非核三原則というものがあります。核を「持たず・作らず・持ち込ませず」という政策です。この非核三原則を世界に公表することによって、日本に核はありませんよと世界にアピールしたことになります。でも実際に、日本はアメリカの核兵器に守ってもらうという方針を取っています。これ、矛盾していると思いませんか?
 私たちは被爆者と同じ体験をすることはできません。しかし、それを想像することは誰にでも出来ます。被爆者の方々は「みんなで手と手を取り合って、身近なところで仲良くすれば必ず平和が訪れる」と口を揃えておっしゃっていました。そういった小さなことから繋げていけば、必ず核廃絶の大きな輪となっていくのではないでしょうか?
 11月13日(日)には北区文化会館にて碑巡りの旅参加者と英語特講受講者による原爆展を開催します。被爆者の方々の思いを後世に残していくためにも、是非会場に足を運んで下さると嬉しいです。

 

 

~アメリカ海外教室~

アメリカにあるボクのもう一つの家  N.T(大望館2年 群馬県太田市)

 この夏、僕は海外教室というプログラムに自分の夢のためとアメリカを思いっきり満喫するために行ってきました。僕は小学校の6年間を英語で学び、ニュージーランドでホームステイをした事もあり、このプログラムをずっと楽しみにしていました。アメリカで過ごした日々は僕の人生のかけがえのないものになりました。
 7月15日、サンフランシスコ空港に着き、ホストファミリーに会うためのバスに乗った。僕の頭の中はワクワクと楽しみに思う気持ちと不安でいっぱいでした。バスから降りるとそこには僕の名前が書いてある紙を高く掲げている家族を見つけました。その時の僕はなぜか少し懐かしく感じました。それは、僕の寮生活が始まった日のあの日の光景と全く同じだったからです。そしてアメリカで入寮日と同じように大きな紙を掲げてくれている人の所へ行き、新しい生活が始まりました。自己紹介をする時、僕は少し緊張していましたが、ホストファミリーは最初から僕が家族であるかのような雰囲気で接してくれました。そのおかげで僕はとても短期間で溶け込めました。
 ハンバーガー・ピザ・ホットドッグ・アイスクリームなどのアメリカンな食べ物をいっぱい食べ、家族と一緒に湖でカヌーに乗ったり、映画を観に行ったりしてとても楽しかったです。朝起きてすぐにコーラを渡された時は驚きました。
 プログラムの最後にみんなで歌を唄ったり、一緒に食事をして感謝の気持ちとお別れを伝えるためのSAYONARA パーティーがありました。そこで僕はホストファミリーからプレゼントをもらいました。その中には何と、家の鍵が入っていました。他にも「来てくれてありがとう。あなたは私の大切なもう一人の息子であり、家族の一員なのだからいつでも帰っておいで。」と書かれた手紙と記念写真が入っていました。
 アメリカでの生活で僕は、感謝することの大切さ、コミュニケーションの大切さ、そして世界中どこでも自分をさらけ出し、心を開けば誰とでも繋がれることを知りました。将来彼らのように、人の為に何かを喜んで出来る心の広い大人になりたいです。
 最後に、アメリカで新しい家族と絆を結ぶ機会を与えてくれた僕の家族にとても感謝しています。ちなみに、日本に帰ってきて、生まれて初めてホームシックになりました!

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変わるきっかけを与えられた2年生合宿

I.M(みぎわ館2年 新潟市東区)

 私は、正直2年生合宿をしたくありませんでした。なぜなら、集団で協力しながら何かをすることが苦手だからです。
 合宿は、ホールでのオリエンテーションから始まりました。その時の私は、2年生のみんながいるところから一歩離れたところで話を聞いていました。始めからみんなと距離を置いてしまっていたのです。次のプログラムである掃除が始まると、「集団」で活動するのが苦手な私は、また少し離れたところで掃除をしていました。そんな時、一人の仲間が声をかけてくれました。
「私の掃除する場所は終わったんだけど、何か手伝うことある?」と。
 仲間が積極的に手伝ってくれたおかげで、一人で掃除するよりも早く終わらせることができました。とても助かったし、何より声をかけてくれたことが嬉しかったです。
 また、夜のプログラムであるワークショップをやっている時のことです。グループに分かれて折り紙をしていたのですが、どうしても分からない折り方があり、私は困っていました。そんな時にもグループの仲間が私に声をかけてくれて、私が理解できるまで折り方を丁寧に教えてくれました。
 合宿が終わってから、「私のためにみんなが協力してくれていた」ということに気が付きました。それなのに私は、みんなに協力するどころか自分から離れていました。こんなに優しいみぎわ館の2年生の輪の中に入ろうとしない自分、本当はもっと入りたいけど入れない自分がいることに気が付きました。
 この合宿で、「協力することの大切さ」・「2年生みんなの心の温かさと優しさ」を実感しました。次は、私がみんなに返す番。自分から声をかけたり優しくしたり、合宿で実感した気持ちを、態度や行動で少しずつみんなに返すことができたらと思います。2年生のみんなを信じて頑張りたい、みんなの輪の中に入れる自分になりたいと強く思えたのはみんなのおかげ。2年生のみんなありがとう。

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【編集後記】

 夏休みが終わり、学校生活・寮生活がスタートしています。まだまだ残暑が厳しい毎日ですが、生徒達は暑さに負けず、目の前にあることを一つひとつ確実にやり遂げようとパワー全開で、日々生活しています。
 今年の夏休み、一人ひとりどのように過ごしたのでしょうか。家でのんびり休息の時間を過ごしたり、夏休みだからこそできる貴重な経験を積んできたり、様々な体験を通して自分自身を見つめることができたり……。休み中に心で様々なことを感じたことでしょう。夏休みに得た沢山の糧をこれからの学校生活・寮生活に生徒達がどう生かしていくのか。生徒達の成長を心から楽しみにしています。
 さて、9月に入りのぞみ寮では世代交代の準備が始まっています。3年生が1年間、のぞみ寮や各館の運営を担ってきてくれていましたが、そのバトンが今度は2年生へと渡されます。また、1年生も2年生と一緒に寮の課題と向き合い2年生をサポートし、共に運営していくことになります。一人ひとりが与えられた役割を担っていく中で、一回りも二回りも成長していくことを心から祈っています。

みぎわ館担任 小林 渚